ゼロベースがスタッフにとってどういう存在であることを目指しているのか、その取り組みの現状を報告します。なお、この記事は初版2010年1月、最終更新日2011年11月16日です。本制度は2008年下期に試行したうえで2009年度から導入しました。
独立採算制
ゼロベースでは
- スタッフ個々人を独立した「事業体(企業)」のようにみなしています(※註:会計制度について)。
- 各自の業績は報酬に直接連動します(成果報酬・歩合制)。
- 報酬を決めるための人事評価は一切ありません(人為的余地はなく、規則的に決定されます)。
- 原則としてすべての仕事は「取引」です。
社外取引・社内取引
ゼロベースでは
- 仕事の価値を自分で評価します。
- 自分で値段をつけて(見積)、価格交渉して、受注して、納品することで、自分で決めた金額が自分の「売上」になります。
- 反対側から見れば、自分が合意した額の「費用」を払って、同僚に仕事を依頼することになります。
- もちろん社外との取引も同様です。
- 原則として仕事の依頼を断る自由があります。
ゼロベース社外の「市場」と同じように、ゼロベース社内にも「市場」があります。「売上」と「費用」は「社内」と「社外」で区別されるので、次の4通りに分類されます:
| 社外 | 社内 | |
|---|---|---|
| 売上 | 社外売上 | 社内売上 |
| 費用 | 社外費用 | 社内費用 |
ワークスタイル
この制度は、次のような働き方に帰結します:
- やりたい仕事(案件)を選ぶことができます。
- やりたい仕事がなければ、自分で仕事を作ったり、社外から受注してきたりといった選択肢があります。
- 完全結果主義の職場環境 (ROWE) なので働く場所や時間は自由です。
- 「つきあい残業」といったものはなく、各自好きな時間に出勤・退勤します。
- そもそも出社するもしないも自由です。
- 仕事をまったく入れない期間を作って、まとまった休暇をとることもできます。
個人主義的な社風
狭義の「制度」ではありませんが、業務以外の点における個人主義的な社風を紹介しておきます。社風はほとんど変わらない強固なもので、そこで働く人に多大な影響を及ぼすという意味では広義の「制度」の一部として考えられます:
- 社内での飲み会は年に数回です。
- 業務外のクラブ活動などもありません。
- お互いの私生活に関する会話は少ないです。
それでも業務上のチームワークは問題ありません。各自が自分の私生活を大事にするという意味での個人主義と、お互いの領分を尊重するプロフェッショナリズムがあります。その結果としてワーク・ライフ・バランスを実践しやすい職場になりつつあると思います。
本部費(共通固定費)
会社の共通固定費(家賃など)は「本部費」として全員で分担します。間接部門(本部)は本部費を使ってスタッフに様々なものを提供します:
- 職場、事務所
- 間接部門のサービス(総務、庶務、会計、税務、法務など)
- 固定給と賞与※
- 機会(社内市場への参加、受注機会、低い取引コスト)
- ソーシャル・キャピタル(人間関係資本:助け合い・手伝い、案件の回し合い、教え合い・学び合いなど)
- ブランド
註
- 固定給と賞与
- 成果報酬制でありながら毎月の固定給が支払われる仕組みは、「本来の報酬額」と「12ヶ月分の固定給」の差額を決算賞与として毎年支給することにより実現されています。
「税制」「財政」「小さな政府」という「国家」のメタファ
本部費の計算ルールは「税制」のように決めています(※註:税制について)。現行制度では「毎月5万円(年間60万円)+売上総利益×20%」です。
本部費が減るためには「人が増える」「一人あたりの売上総利益が増える」ことが必要です。つまり「本部」の経営努力としては「人材採用活動に取り組む」「スタッフの稼ぎを増やすことに協力する」などの方策があります。なるべく「小さな政府」にしてスタッフの手取りを増やしたいと考えています(※註:共通固定費について)。
実はこのような制度を構想する際に気づいたのですが、「企業」を「国家」に読み替えることで、国家・社会に関する様々な知見を導入できます。そのうえで「自由主義的な国家のように企業を設計できないだろうか」と考えました:
| 国家・社会 | 企業 | |
|---|---|---|
| 原則 | 憲法 | 行動規範・倫理憲章 |
| 代表 | 首相 | 社長 |
| 立法 | 国会・委員会・審議会 | 経営会議・取締役会・株主総会 |
| 司法 | 警察・検察・裁判所 | 社長・総務 |
| 行政 | 政府 | 本部 |
| 安全保障 | 外交・軍事 | 法務 |
| 行政予算 | 歳入・税収 | 本部費 |
| 経済主体 | 政府/法人/家計 | 本部/スタッフ/家計 |
| 市場取引 | 外需/内需 | 社外取引/社内取引 |
あくまでアナロジーですから、厳密性はありません。末尾に「○○等」とつけるのは省略しました。
モデルケース
取引関係図
この図の「デザイナー」の個人採算表がどうなるか、以下に示します。
個人採算表(年間)
| 社外売上 | 400万円 |
|---|---|
| 社内売上 | 1,000万円 |
| 社外費用 | 200万円 |
| 社内費用 | 0万円 |
| 売上総利益 | 1,200万円 |
| 本部費※ | 300万円 |
| 営業利益※ | 900万円 |
| 総支給額※ | 600万円 |
| 社会保険料※ | 76万円 |
| 経費※ | 24万円 |
| 既出人件費※ | 700万円 |
| 未処分利益※ | 200万円 |
註
- 本部費
- 「年間60万円+売上総利益×20%」です。
- 営業利益
- 売上総利益から本部費を除いた営業利益は「報酬」「人件費」です。
- 総支給額
- 固定給と通勤費です。
- 社会保険料
- 年金・健保・雇用保険の会社負担分です。一方の本人負担分は給与支給時に(給与明細で)控除されます。なお、社会保険料額は前年度の所得や家族構成(扶養控除)などに左右されますので、上の例にある金額はあくまでも一例です。
- 経費
- 自由に使える経費です。PC、ソフトウェア、書籍雑誌、文房具、旅費交通費といった「事業性のある経費全般」が該当します。
- 既出人件費
- 「総支給額+社会保険料+経費」です。毎月支払われるので「既出」の人件費です。これに対して「未処分利益」は「決算賞与」のタイミングまで支払が「保留」されて、期末までは「社内預金」となります。このように「既出人件費」と「未処分利益」が対になっています。
- 未処分利益
- 営業利益から既出人件費を引いた残りが未処分利益です。決算賞与として期末に支払われます。
簡単に言えば、外注費を除いた稼ぎ(売上総利益)が月額100万円(年額1,200万円)なら、給料(賞与込み)は月75万円(年900万円)になります。あとはふつうの給与明細と同じで「社会保険料」「所得税」「住民税」が控除されて「差引支給額(手取り)」になるわけです。
会社員の感覚では「なぜ社会保険料の会社負担分や経費が本人の報酬(営業利益)から引かれるのだ?」と思われるかもしれませんが、個人事業主(フリーランス)の感覚では自然な仕組みだろうと思います。
給与明細と手取り(差引支給額)
給与明細はふつうの会社と同じです。
「手取り額(差引支給額)」の計算は次のようになります:「総支給額(固定給)」と「未処分利益(賞与)」から、税金など(※)を控除し、立替経費も精算した金額です。
※註:「税金など」の中身は、「社会保険料(年金・健保・雇用保険)の本人負担分」「所得税」「法人税」です。
透明性と公平性
会計データの多くを共有しています。いわゆる「オープン・ブック・マネジメント」です:
- 全員分の取引明細
- 全員分の個人採算表
- 会社の財務諸表
前述の「報酬額の決定に裁量の余地はない」という約束・規則は、「オープン・ブック(公開された会計簿)」という透明性によって保証されています。裏でこっそり数字をいじる、といった裁量の余地はありません。
自律と自由
このように、ゼロベース株式会社は「フリーランス的な自立したプロフェッショナルにとって働きやすいプラットフォーム」を目指しています。
「自立したプロフェッショナル」という言葉は「上司(ボス)がいないこと」を意味しています。プロジェクトごとに発注者やプロジェクトリーダー、ディレクタはいますが、あくまでプロジェクトごとの一時的な存在です。恒久的な上司(ボス)はいません。ですから、自己統制による目標管理 (Management By Objectives through Self Control) がワークスタイルの基本になります。
フリーランスのように自律的 (autonomous) に働ける人にとっては、とても働きやすい職場だと思います。
このような会社で働くことに興味があれば、気軽にコンタクトしてください。取材の依頼も受け付けています。→採用情報
いますぐ就職・転職ということでなくても、気軽に会話しましょう。フリーランスの方なら、最初は案件毎の業務委託取引から初めて「お互いに意気投合すれば入社」という緩い入社プロセスもアリです。
脚註
- 会計制度について:管理会計用語で説明すると「個人」を「事業部」とみなした「セグメント会計」になっています。制度全体に「所有権(私有財産制)」の概念が徹底しています。収入・売上であれ、支出・費用であれ、お金は個人に紐付きます(※例外として、共通固定費で購入された資産などは会社に帰属しますが)。この考え方を徹底すると、社会保険料の会社負担分も本人の営業利益から控除されることになります。また、「節税」という実践的な知恵も生まれます。会計年度をまたがずに利益を再投資(PC・ソフトウェア・書籍・セミナー等へ)することが制度的に推奨されます。経費を増やして報酬を減らすことが、個人の所得税・住民税を節税することになるわけです。
- 税制について:財政の収支だけが問題なのではありません。「応益税か応能税か」といった問い、つまり「公平性についての思想」も必要となります。いまのところ現行制度がうまく機能しています。
- 共通固定費について:ミルトン・フリードマンは「人間が一番いい加減な金の使い方をするのは他人の金を他人のために使う時だ」と言いました。財政支出(共通固定費)はなるべく小さい方がよいと考えます。普通の会社では「会社から支給」されるようなものも、各自の自己負担とします。例えば、PCは事実上一人が占有しますから、共通固定費ではなく各個人の経費とします。ただし、好きな機種を選べる(自分の金だから自由に使って良い)のです。




