iPhoneの開発戦略と囲碁のコウダテ
09-03-18
posted by
石橋秀仁
Appleは、iPhone開発において、誰もが「なんでそんな機能が無いんだ」と思うような機能を、「手抜き」しています。
iPhone OS 3.0ではようやくカット/コピー/ペースト/アンドゥ機能がサポートされる。
コピー&ペースト機能は、アプリ間・機能間でも利用できるそうで、iPhoneで最も使い勝手の悪かった部分がようやく改善されるわけだ。これは率直に嬉しい。でも、よくよく考えると「カット/コピー/ペースト/アンドゥ」なんて、普通の携帯端末なら当たり前の機能だ。むしろ普通の端末でこれらの機能がなければ、その端末は欠陥品に近いらく印を押されても仕方がないようなレベルのものではないか。そんなレベルの機能が搭載されるということだけで歓迎され、話題になるiPhone、Appleってやっぱりスゴイなと思う。
Appleはけっこうそういうことを戦略的にやってるんじゃないかと思うところがある。他にはない突出した魅力だけで引っ張って、実はよくよく比較してみると、その他の多くの部分では他の機器やサービスにかなり遅れをとっている。
でも、メジャーアップデートや最新版などで、劣ってるところが改善されていき、それによって多くのファンが、Appleやってくれました! Appleサイコーとなり、ロイヤルティがさらに高まる、そんな仕掛けだ。
iPhoneの開発総責任者に囲碁をやらせたらコウダテの使い方が上手いだろうと思う。
コウは囲碁のルールの一つで、お互いが交互に相手の石を取り、無限に続きうる形。実際には下記のようなルールで、無限反復は禁止されている。漢字では「劫」で、本来仏教における非常に長い時間を指す語であり、そのように永遠に対局が続くことを防止するルールである。
他の部分に打って、相手に受けさせる手のことを「コウダテ」あるいは「コウ材」という。相手のコウダテに手を抜き、コウをツグかまたは△のいずれかの石を取ることを、「コウに勝つ」と表現する。コウに勝つことを目指すか、コウを譲って他で得をするかは、全局的な形勢判断のもとに決められなければならない。
黒が1にコウを取った場面。白はaにすぐには取り返せないため、2に「コウダテ」を打つ。ここで黒はコウダテに手を抜いてaにツゲば左下の黒は生きだが、その代わり白にbへ連打され、右下が破られる。右下と左下どちらが大きいか、他に黒がもっと有効なコウ材をたくさん持っているかなどを考え合わせ、コウダテに受けるかコウを解消するかを決定する必要がある。こうしたコウをめぐる駆け引きは囲碁の醍醐味の一つである。
「いつでもできること」を「いつやってもいいもの」と位置づけて、戦局を主導的に展開する。つまり、自分で戦場を設定し、そこに相手を引き込む。これが上手い。
言ってみれば、当たり前の機能を、あえて「手抜き」することで、将来の「コウ材」を作っているわけです。例えばメジャー・バージョンアップを控えているのに「やばい、目玉となる追加機能がない」といったときには、作っておいたコウ材を利用する。これがAppleのコウダテ戦術(笑
こういうことができる背景には、開発ロードマップを決める際に、重要度・緊急度を判断する独特の基準・価値観があるのでしょう。クリステンセン教授は価値観を「意志決定における判断基準」と定義しています。
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