メモ(イノベーションとアブダクション)
09-11-11
posted by
石橋秀仁
この記事は、たんなるメモです。思考過程の一部であり、結論ではありません。
イノベーティブな製品を企画・設計するうえでは、予断を持たず、多くの前提を仮説として留保したまま、足場の不安定な議論を進めることが大事だと考えています。
最初から「mixiアプリを作ろう」とか「ケータイサービスを作ろう」といった「予断」があることで、発想の幅が強く制約されてしまうのです。そういう演繹的な思考では、とてもつまらない、ありきたりで、競争優位性のない製品が企画されがちです。
とはいえ、そういう制約のなかで、どういったものを作るかを保留して進めることで、おもしろい、ユニークで、競争優位性のある製品を企画することはできるでしょう。
例えば「mixiアプリ」を作ろうと決めた上で、独創的なmixiアプリを考えることができます。
一方で、「農場系のアプリを作ろう」と決めた瞬間に、独創性の無い企画しか出てこなくなります。
いちおう言っておくと、「農場系mixiアプリ」のなかで独創的なことができるかもしれません。(私自身は、そういうレッドオーシャンが苦手です・・・どちらかというと破壊的イノベーションでブルーオーシャンを創出する仕事に情熱を燃やします)
要するに、「予断を持たない範囲」、言い換えれば「企画のスコープ」を、どれほど広くとれるか。「○○を作る」という前提の○○を、どれくらい抽象的な定義に保留したままで、議論を進められるか。これがイノベーティブな企画には大事だと考えています。
さらに言うと、「〜を作る」という予断は、「〜を作らない解決策」を見落とすことに通じるので、ほんとうは「〜を作る」とさえ言わない方がよいと思います。誰のどんな問題を解決するか。「○○の△△な問題を解決する」という定義は、わりとよいのではないかと考えています。
「エレベータと鏡」の話は有名です。『パラダイムの魔力--成功を約束する創造的未来の発見法
』に通じるエピソードです。
さて、いざ実践してみようとなると、新たな問題が出てきます。
「予断を持たず、多くの前提を仮説として留保したまま、足場の不安定な議論を進めること」の実践においては、一寸先が闇となり、落としどころが見えないために、ふつうは疑心暗鬼になります。
「このまま進んでいっても大丈夫かな?」と不安になれば、人は慣れ親しんだ方法に戻ります。
だから、プロセスの「型」を持っておくことが有効ではないかと思います。
もしプロセス全体が見えていれば、安心して「分からない」を「分からない」ままに進めやすくなります。「落としどころ」は見えなくても、「落とし込みかた」は分かっている状態。
プロセスの「型」があることで、アブダクション(仮説推論)が助けられます。アブダクションは、演繹とも、帰納とも異なる思考法です。
例えば「リンゴが落ちた」→「もし引力というものがあるとすれば、それば当然だ」→「引力があるというのは有力な仮説だ」といった具合です。
アブダクションは、イノベーションの役に立ちます。
クレイトン・クリステンセン教授は、『イノベーションへの解』において、「属性ではなく状況でマーケティングせよ」「製品がどのような用事をこなすために雇われているかを見よ」と説きました。
つまり、「顧客が片付けようとしているのに、うまくこなせていない用事」を見つけ、その状況を理解し、それを解決せよ、と。
そのために、まず何から始めるか。人間行動の理解、そのための観察です。そこから得られた洞察(インサイト)をもとに、問題を提起する。
そこには、誰のどんな問題を解決したいかについて、企画者の「想い」もあるでしょう。 その「想い」は「情熱」となって製品化・事業化の原動力になるはずです。「想い」のない企画は、難しいのではないでしょうか。
その次にどうするか。「その問題が解決された状況・状態とは何か?」と想像してみましょう。すると、理想と現実の「ギャップ」が見つかります。これが「解決すべき問題」です。その解決策は、すなわちその状況下で顧客に「価値」をもたらす製品になります。
さて、ここまで「どうやって解決するか」という話をしてきませんでした。ましてや「どういう製品を作ればいいか」という話は保留してきました。
これを保留したまま議論を進めていくことを、大事にしているのです。
だから、「まだ見ぬ製品X」ということにしておきます。なお、「製品」には「サービス」も含めています。
「まだ見ぬ製品X」があるとして、それにより現実が理想の状態になる、と考えてみましょう。
これが企画・設計におけるアブダクションの使い方です。
ここで発想の飛躍(水平思考)が求められるのは言うまでもありません。
ブレイン・ストーミング(ブレスト)も有効です。上述のアブダクションの型に当てはめて、製品Xを発想する。こうフォーカスすることで、ブレストが有意義になります。
IDEOのトム・ケリーが著したように、手頃なサイズの、具体的な問題を解決するためにブレイン・ストーミングするのが有効であって、漠然とした目的設定のブレストは有意義な成果につながりにくいです。
いったん有力な解決策(アイデア)が出てきたら、そこからは演繹的に進めることが出来ます。
もちろん、人間中心設計(HCD)の考え方で、試作して、モニターテストなどにより「現場で使われる状況」を観察し、そのフィードバックで再設計するという反復型(スパイラル型)のプロセスになります。
ですが、これは問題発見、問題設定のフェーズに比べれば、ずいぶん直線的な論理思考で進めることができます。
最後に、まとめです。
イノベーティブな企画のために、「予断を持たず、多くの前提を仮説として留保したまま、足場の不安定な議論を進めること」を実践する。そのためには、プロセスの「型」があるとよい。その「型」として、理想と現実のギャップ(=解決すべき問題)を特定した上で、アブダクションによって発想する、という方法がある。解決すべき問題が特定されていれば、ブレイン・ストーミングで有力なアイデアが得られる可能性は高まる。
適切に問題を定義することが重要です。
問題解決手法については、語り尽くされています。しかし、問題発見・問題設定の手法については、まだまだ十分に語り尽くされていないと思います。
ここに書いたのは実践知・暗黙知であって、日々模索・更新しているものであって、まだ形式知として記述できるものではありませんが、現時点で深く考えずに書ける範囲で書いてみました。
最初から「mixiアプリを作ろう」とか「ケータイサービスを作ろう」といった「予断」があることで、発想の幅が強く制約されてしまうのです。そういう演繹的な思考では、とてもつまらない、ありきたりで、競争優位性のない製品が企画されがちです。
とはいえ、そういう制約のなかで、どういったものを作るかを保留して進めることで、おもしろい、ユニークで、競争優位性のある製品を企画することはできるでしょう。
例えば「mixiアプリ」を作ろうと決めた上で、独創的なmixiアプリを考えることができます。
一方で、「農場系のアプリを作ろう」と決めた瞬間に、独創性の無い企画しか出てこなくなります。
いちおう言っておくと、「農場系mixiアプリ」のなかで独創的なことができるかもしれません。(私自身は、そういうレッドオーシャンが苦手です・・・どちらかというと破壊的イノベーションでブルーオーシャンを創出する仕事に情熱を燃やします)
要するに、「予断を持たない範囲」、言い換えれば「企画のスコープ」を、どれほど広くとれるか。「○○を作る」という前提の○○を、どれくらい抽象的な定義に保留したままで、議論を進められるか。これがイノベーティブな企画には大事だと考えています。
さらに言うと、「〜を作る」という予断は、「〜を作らない解決策」を見落とすことに通じるので、ほんとうは「〜を作る」とさえ言わない方がよいと思います。誰のどんな問題を解決するか。「○○の△△な問題を解決する」という定義は、わりとよいのではないかと考えています。
「エレベータと鏡」の話は有名です。『パラダイムの魔力--成功を約束する創造的未来の発見法
なぜ、「エレベータの前に鏡を置くこと」で、「エレベータの待ち時間が減らす」という「問題」が「解決」したのか。
さて、いざ実践してみようとなると、新たな問題が出てきます。
「予断を持たず、多くの前提を仮説として留保したまま、足場の不安定な議論を進めること」の実践においては、一寸先が闇となり、落としどころが見えないために、ふつうは疑心暗鬼になります。
「このまま進んでいっても大丈夫かな?」と不安になれば、人は慣れ親しんだ方法に戻ります。
だから、プロセスの「型」を持っておくことが有効ではないかと思います。
もしプロセス全体が見えていれば、安心して「分からない」を「分からない」ままに進めやすくなります。「落としどころ」は見えなくても、「落とし込みかた」は分かっている状態。
プロセスの「型」があることで、アブダクション(仮説推論)が助けられます。アブダクションは、演繹とも、帰納とも異なる思考法です。
アブダクションとは、
驚くべき事実Cが観察される
しかしもしHが真であれば、Cは当然の事柄であろう、
よって、Hが真であると考えるべき理由がある。という推論形式である。
例えば「リンゴが落ちた」→「もし引力というものがあるとすれば、それば当然だ」→「引力があるというのは有力な仮説だ」といった具合です。
さらにアブダクションになると、もはや推論の正しさは求められません。むしろ、アブダクションの重要性は「目の前にあるもの」から、まったくかけ離れた「目の前にないもの」を発見することにあります。本書で繰り返し例にあげられるのがニュートンの万有引力の発見で、 ニュートンは目の前のりんごの落下と地球と月の関係から、それまで存在しなかった万有引力という「説明仮説」を推論したわけです。
アブダクションは、イノベーションの役に立ちます。
アブダクションは帰納と比較して創造性の高い拡張的推論だが、過謬性の高い、論証力の弱い推論でもある。だが既存の枠組みを超えるイノベーションを生み出すために不可欠な、もっとも優れた推論なのだとパースは高く評価する。アブダクションとイノベーションには、どういう関係があるでしょうか?
クレイトン・クリステンセン教授は、『イノベーションへの解』において、「属性ではなく状況でマーケティングせよ」「製品がどのような用事をこなすために雇われているかを見よ」と説きました。
つまり、「顧客が片付けようとしているのに、うまくこなせていない用事」を見つけ、その状況を理解し、それを解決せよ、と。
そのために、まず何から始めるか。人間行動の理解、そのための観察です。そこから得られた洞察(インサイト)をもとに、問題を提起する。
そこには、誰のどんな問題を解決したいかについて、企画者の「想い」もあるでしょう。 その「想い」は「情熱」となって製品化・事業化の原動力になるはずです。「想い」のない企画は、難しいのではないでしょうか。
シンプル・デザインの実践にあたっては、クリエイティブ力が必要になってきます。とくに、強いコンセプトを出して、それをもとに開発過程(クリエイティブ・プロセス)をコントロールするディレクション力が。
その次にどうするか。「その問題が解決された状況・状態とは何か?」と想像してみましょう。すると、理想と現実の「ギャップ」が見つかります。これが「解決すべき問題」です。その解決策は、すなわちその状況下で顧客に「価値」をもたらす製品になります。
さて、ここまで「どうやって解決するか」という話をしてきませんでした。ましてや「どういう製品を作ればいいか」という話は保留してきました。
これを保留したまま議論を進めていくことを、大事にしているのです。
だから、「まだ見ぬ製品X」ということにしておきます。なお、「製品」には「サービス」も含めています。
「まだ見ぬ製品X」があるとして、それにより現実が理想の状態になる、と考えてみましょう。
これが企画・設計におけるアブダクションの使い方です。
- 驚くべき事実「ある製品Xによって、顧客にとって理想的な状態が実現された」が観察される。
- しかし、もし「ある製品Xが、理想と現実のギャップを埋める解決策になっている」ならば、「ある製品Xによって、顧客にとって理想的な状態が実現された」は当然の事柄であろう。
- よって、「ある製品Xが、理想と現実のギャップを埋める解決策になっている」が真であると考えるべき理由がある。
ここで発想の飛躍(水平思考)が求められるのは言うまでもありません。
ブレイン・ストーミング(ブレスト)も有効です。上述のアブダクションの型に当てはめて、製品Xを発想する。こうフォーカスすることで、ブレストが有意義になります。
IDEOのトム・ケリーが著したように、手頃なサイズの、具体的な問題を解決するためにブレイン・ストーミングするのが有効であって、漠然とした目的設定のブレストは有意義な成果につながりにくいです。
いったん有力な解決策(アイデア)が出てきたら、そこからは演繹的に進めることが出来ます。
もちろん、人間中心設計(HCD)の考え方で、試作して、モニターテストなどにより「現場で使われる状況」を観察し、そのフィードバックで再設計するという反復型(スパイラル型)のプロセスになります。
ですが、これは問題発見、問題設定のフェーズに比べれば、ずいぶん直線的な論理思考で進めることができます。
最後に、まとめです。
イノベーティブな企画のために、「予断を持たず、多くの前提を仮説として留保したまま、足場の不安定な議論を進めること」を実践する。そのためには、プロセスの「型」があるとよい。その「型」として、理想と現実のギャップ(=解決すべき問題)を特定した上で、アブダクションによって発想する、という方法がある。解決すべき問題が特定されていれば、ブレイン・ストーミングで有力なアイデアが得られる可能性は高まる。
適切に問題を定義することが重要です。
問題解決手法については、語り尽くされています。しかし、問題発見・問題設定の手法については、まだまだ十分に語り尽くされていないと思います。
ここに書いたのは実践知・暗黙知であって、日々模索・更新しているものであって、まだ形式知として記述できるものではありませんが、現時点で深く考えずに書ける範囲で書いてみました。
Powered by POPit
Powered by POPit








コメント