最終更新日
3月20日

戦略なきWeb企画法

 

posted by
石橋秀仁

「Web企画屋」っぽいことを書きます。

世の中のきちんとしたWeb構築方法論の本は、そのサイトの「戦略」が与えられている状態からスタートします。ふつう、「戦略立案」はWeb制作屋さんの仕事ではないから(クライアント側が発注前に済ませる仕事)ということなのでしょう。もっともです。

あるいは、コンサルティング能力が高い会社には、戦略立案も含めて相談が来ますよね。

今回の記事では、そのどちらでも無いケースを書きます。

「戦略が固まっていないとき」に、どう企画しているかという話を。

うちへの依頼では、けっこうあります、そういう依頼。そして、それは様々な事情があるせいで、決してクライアントの怠慢とか、コンサルを雇う予算がなかったとか、そういう後ろ向きな理由では無い場合も。

べつに良くも悪くもなく、たんに「ふつうのこと」だと思います。

ここで「戦略のないWebは失敗する」なんて言うと、つまらないブログですね(笑

ここでは「ボトムアップの戦略立案」という考え方を紹介します。企画とプロダクト(成果物)が良ければ、戦略が「後付け理論」になる場合だって少なくないわけで。

前向きに捉えると、そういう「戦略が固まっていない」依頼を受けたプロダクション(制作会社)は、「それだけ企画の余地がある」「アイデアの幅が許される」と考えたらいいですよね。知恵を絞ればいい。腕が鳴るというか。

というわけで、まずは戦略が固まっている場合/いない場合を対比してみます。


■「戦略ありき」でウェブサイト/サービスを考える場合

→トップダウンに考える

「誰に何を提供するか」「どこから利益を得るか」といった事業戦略について十分に検討済みであり、クライアントから(ある意味で)「制約条件」として示されている。

ならば、その制約条件にのっとって、直線的・演繹的に、論理だてて考えていけばいい。

・ビービット・メソッド
 ユーザ中心ウェブサイト戦略 仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践(Amazon)
 ユーザ中心ウェブサイト戦略〜仮説検証アプローチによるユーザビリティサイエンスの実践(beBit)

・Adaptive Path・メソッド
 ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」--5つの段階で考えるユーザー中心デザイン
 adaptive path » the nine pillars of successful web teams

・ペルソナ/シナリオ・メソッド
 コンピュータは、むずかしすぎて使えない! (Amazon)
 @IT情報マネジメント:ユーザビリティ研究会
 ペルソナ/シナリオ法 | 実践!Webマーケティング:Blog | ミツエーリンクス

※ペルソナ/シナリオ法を「ボトムアップ的では?」と思われたかもしれません。ですが「適切なペルソナの設定はマーケティング戦略を前提とする」のではないでしょうか? エイヤッで決めたペルソナに(ビジネスとしての)意味はないのでは? もちろんエイヤッで決めて、プロトタイピングしながらペルソナを見直す、というのは可能ですね。それは「ボトムアップ的」と呼びます(ここでの分類では)。

※プロトタイピング:企画してから制作するのではなく、企画・議論のためのツールとしてプロトタイプを作成し、それをもとに企画をすすめる、という手法


■ポイント

なんといっても、考え始めるうえでの、最初の足場(前提)が与えられているので、安心して進むことができます。

こまめにクライアントに確認し、ドキュメント化し、という、「きちんと」した仕事の進め方で、スコープ/スケジュールの「リスク」を管理するのが、こういうプロジェクトでのポイントでしょうか。


■戦略が固まっていない場合

→ボトムアップに考える&水平思考(脱線思考)

企画するうえでの「前提」(戦略のこと)が与えられていないのだから、前提から演繹的に(ロジカルに)考えることができません。

とはいえ、まったく無いわけでもないはず。「既存事業(本業)」「既存客層」「狙い」「こだわり」「好み」など。

そういう小さな手がかりから広げていく。水平思考(脱線思考)が求められる。ブレストが有効。

・UI/UXドリブン
 「使いやすいUI」「気持ちいいUI(UX)」を軸に、そこから広げて発想していく。
 ※UI=User Interface/Interaction, UX=User Experience

・メタファー・ドリブン
 サービスの「メンタルモデル」の「メタファー」を探す。アナロジーに注目するのが有効。
 その「メタファー」をモチーフ(コア・コンセプト)として、そこから広げて発想していく。

・ネーミング・ドリブン
 先に名前を決めてから、実態(内容)を考える方法。
 けっこう普及している模様。別名ダジャレ・メソッド。

あまり「きちんと」した方法ではないのですが、そもそも「前提」となる戦略が明確ではないので、仕方ないわけです。

いわば、具体的な「企画」を考えることを通じて、それがうまくいくかを「戦略面から検証」する、というアプローチ。冒頭に述べた「ボトムアップの戦略立案」という。

あとは、考えたアイデアを「見える形」(ビジュアル・プロトタイプとか)にして、クライアントや第3者に見せて、反応をもらって、また新たなアイデアを生み、また形にして提示、というサイクルを頑張る。

これが「プロトタイピング」という手法です。

Wikipedia「プロトタイピング」


■ポイント

「前提条件が少ない→足場がゆるい」ならば、みずから「足場」をつくっていくしかない。

「足場」とは企画のたたき台、ビジュアル・プロトタイプ、デモ・ムービー、実際に動作するプロトタイプなど。

いったん「足場」が固まれば(=キーとなるコンセプト、メッセージ、ユニークさなどが見つかれば)、そこを足がかりに一歩ずつ確信を深めながら進めていきます(プロトタイピング)。

当初にアイデアを出しまくる。「アイデアの数」がポイントかなと。


■例

「入・出・貯」のデータを管理する家計簿的なアプリのプロジェクトで。

・UI/UXドリブン
よく使う操作箇所(マスターデータ検索&入力UI)の操作性を追求。

・メタファー・ドリブン
入・出・貯→フロー&ストックのモデル→「バス」というアナロジー(乗客の乗り降り)。

こういう手法は、とくにゲーム的なアプリの企画において有効だろうと思います。「操作感」「楽しさ」を追求するようなものですね。


■例:ニコニコ動画

推測ですが、

ニコニコ動画は「もともとニコニコ動画のプロジェクトは社内ではパケラジ2.0あるいはネットライブと呼ばれている企画であり、ネット上でどうやってユーザにライブ感覚を共有させるのかというのがテーマでした」くらいの緩い問題意識から始まり(?)「われわれはこの時点でこのサービスの成功のポイントは、2ちゃんねるの実況板のような臨場感を生むことであると予想しており、そのためにはコメントの内容自体はわりとどうでもよくて、映像の面白いポイントで、みんなが一斉にコメントすると一挙にコメントがスクロールして流れるという光景をどうやって実現するかが重要だと考えていました」というUI/UXドリブンのプロトタイピングによって企画が洗練されていったのかな?

と思いました。直にお伺いしたわけではないので憶測ですが。

■おわりに

実際われわれの仕事の多くは「戦略の固まっていない」依頼が多いです。そういう依頼を歓迎していますし。

弊社に対しては、なんとなく「こんなことができたらいいな」くらいのニーズがある時点から、ご相談ください。 大歓迎です。

いや、正直に言います。 「言われたことをただやる仕事」が大嫌いです。 お客様のほうで仕様書なんて書いてこないでください。 うちに考えさせてください。 提案させてください。

ゼロベースのサービス詳細はこちら

ところで、今回の記事の内容を扱った方法論や、それについて書いた本って、見かけませんねえ。

「戦略が固まっていないときのボトムアップ・プロトタイピング企画立案法」みたいな方法論。

書いてみるべきか?

※追記:企画の方法論ではなくソフトウェア開発方法論としての「プロトタイピング」と、「ウォーターフォール」がよく対比されますよね。これ、いいところ突いてますよねー。

"NASAやIBMなんかではウォーターフォールでしっかり開発していて、コーディングに入るまで入念な設計とドキュメント作成を行うと聞いたことがある。 ある程度、業務フローが明確なシステムならばあり得るのだろう。 なので、手法の問題というよりは、日本で問題なのは、無策な担当者が外注丸投げをウォーターフォールでやっているからではないのかと思う。" 住みたいところに住める俺: 外注丸投げの弊害

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